中枢神経と動物の変異

<記憶の形状>

(2018.1.11~)

カンブリア爆発と呼ばれる多くの動物門が出現したと言われている時代の初期、もしくはそれ以前にプラナリアのようなシンプルな中枢神経機能を持った動物が出現しました。

現在のプラナリアには「目:視神経」がありますが、カンブリア爆発当時のプラナリアに同じように目が誕生していたかどうかは分かりませんが、これより以前には光の受容体細胞が集団化し、明暗を判別する器官を持ちながらプラナリアよりもっとシンプルな中枢神経を持った動物がいたであろうという事も推測されます。

「目」が誕生したおかげで記憶しなければならない情報量がそれまでに比べ圧倒的に増え、中枢神経が飛躍的に発達したと考えられます。

また、目があることによって餌を捕ることにも圧倒的に有利となり、加えて、他の生物の餌食になることから逃避することも有利になったはずです。

このように目の出現により、競り合いが増え、それに適応するように甲羅のような外骨格ができ、それまでの柔らかい生き物と比較して化石として残りやすくなったため、その時期に爆発的に増えているように見えるという説が最近になって唱えられました *1

話は変わりますが、近年、脳研究が活発となり、記憶のメカニズムに関する様々な説が唱えられています。しかしながら、調べれば調べるほど疑問は増すばかりといった状況で、明確な答えは示されておりません。

ヒトが普段、生命活動を行う際には、常に意識が働き、「記憶する=インプット(入力)」と「思い出す=アウトプット(出力)」が行われていることは明白です。

この「記憶する」時に脳を中心とした中枢神経内で何も「形が変化しない」事は非科学的と捉え、必ず、何か物理的・化学的変化が起こっているという事を改めて提起いたします(①:意識は形状変化を伴うもの)

繰り返しますが、記憶するという事は中枢神経に何かしらの形が刻み込まれる事を意味し、思い出すという事は刻み込まれたその形を読み取っている事を意味すると考えます。世界にはこれと同様のことを提起している脳研究者も数多く存在します。

例えばコンピュータの記憶装置であるHDD(Hard Disk Drive)は磁性粒子のS極/N極の向きの変化であり、SSD(Solid State Disk=フラッシュメモリ)では、電子の移動がそれにあたります。

しかしながらヒトの「記憶する」という現象は「何をもってその現象を起こしているか」について神経細胞(ニューロン)やシナプスが関係しているということが言われているぐらいで、具体的な物質は判明していない状況ですが、直感的には、いくつかの段階(レベル)が存在することは想像できると思います(記憶レベルの表:図1)

 

記憶レベルの表

図1:記憶レベルの表

基本的に短期的な記憶は思い出す回数がまだ少ないために忘れやすく(形を失いやすく)もあり、長期的な記憶は思い出す回数が多かったために刻み込まれた形の数が多かったということです。

ではこの「刻み込まれる形」とは何なのか?という事になりますが、これは化合物1分子なのか、1原子なのか、1電子なのか、あるいは1細胞なのかは今のところ全く分かりません。

 

<用不用説とエピジェネティクス>

チャールズ・ダーウィン(英)が唱えた「進化論」の基本的な考えは「自然淘汰」です。生物は突然変異などにより新たな機能の獲得をすることで、環境に適応したものだけが生き残るという「適者適存」という考えです。

それより以前に、ジャン・バティスト・ラマルク(仏)は「用不用説」を唱えました。

よく使用する器官は発達し、使用しない器官は退化していくという考えで、{生物は「環境」と「意思」の働きによって直線的に進化する}というものです。

この主張は多くの人が納得し、受け入れられ易いにも関わらず、科学的に証明する理論が成り立たないこと、また【「意思」によって形質が変わるとは考えにくい】がために、事実として受け取られていないという現状が長く続いています。

ここで下記の図(図2)をご覧頂くと分かりますが、この二つの理論は相反するものではなく「用不用説」は変異を起こす力(種を増やしていく力)の一つであり、同軸(横軸)に突然変異やレトロトランスポゾンなどが存在します。

自然淘汰はこの横軸への広がりを抑制する力となっていると考えるのが普通のように見えます。

また余談ですが、冒頭に挙げたプラナリアなどは数億年にかけて形が変わらず種が保存された生物種と考えられますが、これらは自己再生能力がとても高く、例えば体の99.6%を食いちぎられても元の個体に再生する能力があるため、変異を起こすことは種の保存に反することであり、現状の機能が保存されたと考えられます。

動物の変異と種の保存力

図2:動物の変異と種の保存力

 

ここでエピジェネティクスの説明をいたします。

この20年ほどの間に、ゲノムに化合物(メチル化-CH3やアセチル化-COCH3)が結合することで、ゲノムの構造がバネのように収縮したり伸長したりすることが提起され、このような後天的な作用でも遺伝子の発現(転写・翻訳)に変化が生じることが分かってきました。また、このようなエピジェネティクスの作用を利用して哺乳類の一部では「ゲノムインプリンティング」という形で父親由来の遺伝子、もしくは母親由来の遺伝子に「しるし」を付けて発現調整を行っていることも判明してきております。

エピジェネティクス

図3 エピジェネティクスの概念

以前はたんぱく質の機能異常が起こった場合は、遺伝子突然変異が起こりたんぱく質の構造変化により機能異常が発生すると考えられておりましたが、このエピジェネティクスの概念により、遺伝子配列に変化が起きなくてもタンパク質の機能異常が起こることが説明できるようになりました。このことは体内に取り入れた化学物質が簡単なメカニズムで遺伝子発現を長期的に抑制したり、あるいは過剰に発現し続けたりすることができることを意味します。実際にがんなど病気の発生メカニズムに関与することなどが分かってきており、すでに創薬のターゲットとして応用されている例も見受けられます。

このように後天的な作用によって長期にわたり遺伝子発現が制御されるということは、1個体の動物の機能にも長期的な「変化」をもたらします。その「変化」のうちの一つが「病気」と言え、エピジェネティクスの機構が慢性的な病気の発生に大きく関与していてもおかしくはありません。

話は変わりますが、一度筋力トレーニングなどで身に付けた筋肉はその後使わないとすぐに落ちてしまいます。しかしながら、落ちてしまっても、また完全に1からスタートとはならず以前より少ないトレーニングで筋肉は復活します。これは筋線維の数と量がトレーニングにより増えたとき、それが一度形状記憶され、そこに戻れる機構があるということです。筋肉は目に見えるので分かり易いですが、反射神経や手先の器用さなども同様のことが実感出来ます。

このように1個体において、神経の数や量、筋線維の数や量を生存していく中で増加されることができます。これは用不用説を否定した時に言われた【「意思」によって形質が変わるとは考えにくい】ということを1世代においては否定することができます。なぜなら動物は「意思」によって行動し、神経の数や筋線維の数を増やすことが可能であるからです。また、この神経数や筋線維数の増加が世代を超えて受け継がれる機構があることに疑いの余地はないはずです。突然変異と自然淘汰だけであれば旧時代の「サル」の中に突然「ヒト」の頭脳を持った個体が現れ、その個体の子孫だけが残り今に至るという事になってしまいます。「サル」から「猿人」と長期にわたり世代を通して脳を初めとする中枢神経を使い続けてきたからこそ、ここまで脳が発達したと考えるのが自然です。

各動物種は見かけ上、大きく違うように見えるかもしれません。「ヒト」と「ミミズ」が似ているというと驚く人も多いと思いますが、「ミミズ」には神経も血管も消化器官もあります。動物はそれぞれが住む生活環に合わせて行動が違ったことで、神経数量や筋線維の数量が変わっていったことでしょう。【進化】というと質の変化ばかり想像しますが、神経などの「数量変化の蓄積」が質の変化(外観)につながったものと考えています。

 

<脳髄液を渡る次世代への伝播>

そうなると中枢神経に刻み込まれた「しるし」を次の世代へ伝播しなければなりません。

 

 

 

 

*1:アンドリュー・パーカー(英)「眼の誕生―カンブリア紀大進化の謎を解く」渡辺政隆・今西康子(翻訳)