産業の礎(いしずえ)

(2019年3月29日~)

現在、最も大きな産業となるICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)分野やコンピューターサイエンス、あるいは計測装置など工業製品のすべてと言っても過言ではない「礎」となる原則があります。それは「波=波動」の存在です。光、音、電気などのすべてにおいて、このことに違いは無く、またこれは自然界の原理原則からもたらされたものです。

すべての物質の構成要素となる原子構造のように、陽子の周りを回転する電子の回転運動のようなスモールサイズの場合もあれば、太陽の周りを惑星が回るという天体の回転運動など、非常にビッグサイズのものまで共通して、波に置き換えることができます。

18世紀中後期、フランスにジョセフ・フーリエが誕生しました。フーリエはナポレオンに憧れて、遂にはエジプト遠征に文化使節団の一員として同伴することになりましたが、フランスに帰国した際にはある石を持ち帰って来ました。それが「ロゼッタストーン」です。これは3つの段落ごと、それぞれに同じ内容ではありますが違う種類の文字で書かれており、そのうちの一つが古代エジプト文字の「ヒエログリフ」と呼ばれるものでした。ロゼッタストーンはフーリエの家にある期間置いてあり、そこに出入りをしていたある若者がその石に魅せられました。彼の名を「ジャン=フランソワ・シャンポリオン」と言い、その後、約20年かけてヒエログリフの解読に努め、その解明に最大の貢献をしました。

昔から、名のある石や宝石は、その持ち主や関わる人の運命に良くも悪くも影響を及ぼすことがありますが、フーリエも例外ではありませんでした。ロゼッタストーンから得た知恵や知識は多大であったと想像できます。その後、フーリエは効率的な熱伝導を計算する方法として「フーリエ解析」の式を見出しました。それ以前にはアイザック・ニュートンが古典力学として、特に微分積分法を発見するなどの功績がありましたが「フーリエ解析」のように三角関数と波の考えを単純化するこの方法論は、それまで極一部の数学者だけが理解していた物理現象を多くの学者が理解できるものに変容させていったと考えられ、オーム、マクスウェル、ファラデーなどの「電磁気学」の発展にも影響を与えたと考えられます。

時と場所は変わり、アメリカでは1850年代になると西海岸地域の河川で多くの金が見つかりゴールドラッシュが訪れ、フロンティア精神を持った人々は東から西に向かって大移動をしました。それらを背景に大陸を横断する鉄道を整備する事業が開始され、その事業で大儲けをした人物が何名かいましたが、そのうちの一人が「リーランド・スタンフォード」でした。スタンフォードはその儲けたお金で大学を設立し、アメリカで初となる「工学部」を設立しました。加えてお金が無くても優秀な人が集まるように学費を無償にしました。

1930年代になるとウィリアム・ヒューレットとデヴィット・パッカードがスタンフォード大学時代の成果を元に会社を設立しました。現存する企業「ヒューレット・パッカード=HP」です。彼らは最初に音響の計測装置を製品開発し、ディズニー社に複数台納品をしました。その後のHPの発展は、その周りに関係する企業を呼び込み、シリコンバレーの素地が出来上がって行きました。1950年代になり「ショックレー半導体研究所」が設立され、世界最先端のコンピューターサイエンス研究が進み、1970年代に「アップルコンピューター」が設立されました。このような技術の積み上げを経て時代が進み、1980年代に「ヤフー」「シスコシステムズ」「サンマイクロシステムズ」「グーグル」などが設立されました。この4社はすべてスタンフォード大学の学生が学生時代に設立した会社です。

「電磁気学」では先行していたフランスやイギリスではなく、なぜアメリカでこのような連続的なコンピューターサイエンスやインターネット技術が発展したのか、その理由を改めて振り返りたいと思いますが、一つは前述したような「フーリエ解析」の手法を正しく理解し学生たちに教えた教師がスタンフォード大学にいたこと、また実務の面からこれらの解析手法を利用しようと考えた人たちが大勢いたことが考えられます。

もう一つはこの後に挙げる「電気のインフラ」が他国に先駆けて整ったことが大きかったことも考えられます。

19世紀後半にアメリカで活躍したトーマス・エジソンが発したいくつかの言葉は、彼が「あきらめずにトライアンドエラーを続けること」が重要だと考えていたことが浮かび上がってきます。その考えは「実験実証者」の考えです。そのエジソンは蓄音機や電話の開発も行いましたが、中でも白熱電球を開発し実用化するための事業化に力をそそぎました。その事業の主な仕事は発電所と送電網を作る事でした。

そのような事業を進めている最中、エジソン電灯会社に一人の若者が入社しました。ニコラ・テスラです。彼はそれまでエジソンが進めていた直流送電の方式に対し、交流送電の優位性を理論的に説明しましたが、理解されず反対され失職することになりました。そのことがきっかけでエジソン率いるエジソン・ゼネラル・エレクトリック・カンパニーとテスラが率いるジョージ・ウエスティングハウスの間で「電流戦争」が勃発しました。結果はテスラに軍配が上がり、その交流送電方式は現代にも引き継がれています。

「実験実証者」のエジソンは小学校を中退し独学で様々な分野に興味を持ち実務と経験から学んだ、浅く広い知識のタイプです。これとは反対にテスラは高学歴の「理論科学者」で狭く深い知識を持つタイプでした。互いがその事を理解せずにぶつかる事はよくありますが、この時も同様に確執が起こりました。

「実験実証者」は予想と違う事にも興味を持ち、横展開がうまいので新しい発見が多く技術革新も起こりやすいです。それに比べ「理論科学者」は予想と違う事は捨てるべきものと判断をするため新しい発見には気が付きにくいのですが、より高いレベルの技術を利用し安定したもの得ることが可能となります。

エジソンは様々な争いで負けましたが、エジソンが開発した白熱電球により発見された「エジソン効果」や誘導コイルの技術はその後の真空管、加えてトランジスタの発明にもつながるものでした。このようにエジソンが様々な科学者と確執をしながらも技術の牽引役となり、かつ世界に先駆けてアメリカ全土の大学や企業、研究機関などに豊富な電力が行きわたることにより、上述のコンピュータサイエンスの基盤技術である、トランジスタの開発や高感度な計測装置などが揃い、発展につながったと考えられます。

エネルギーとして電気が豊富にあるか無いかはその当時、非常に重要なポイントであったと考えられます。

時代はまた戻り、イギリスの産業革命。まだ電気が無い時代でした。イギリスの産業革命における成果物として有名な物は蒸気機関と製鉄、紡績技術などですが、それらを可能にしたのはそれまでの水力や人力・家畜などの動力から「石炭」という新しいエネルギー源を手に入れて利用を始めたからでした。

世界中で炭鉱を探す動きが活発になり石炭の生産量が飛躍的に増加するのですが、産業革命の場合はその前にツール(道具)の技術革新が存在し、その発展が石炭のニーズを連続的に生み出します。

ツールの技術革新に触れる前に、まずは人類史上、最も古くから存在する機械の話に触れたいと思います。それは「時計」です。

バビロニア、エジプト、ギリシアなど紀元前の文明では既に塔の形をしたオベリスクやグノモンなどの日時計が有り、これを用いて時間を読み取っていました。しかしながら、これらはおおまかな時間の経過しか判らないため、水や砂などの流体を用いた時計が作られるようになりました。水時計はまず最初に容器が水で満たされる時間を計り、その後、容器にどのくらいの高さまで水が溜まったかを計る事で時間が読み取れるという物です。その後、より狂いが無く安定した計測をするための改良が施され、アルキメデスなどにより様々な機械仕掛けが発明されていたことが資料として残っています。アンティキテラ(ギリシャ)海底の沈没船から発見された青銅の欠片には歯車構造が見受けられ、既に紀元前200年には直径の違う歯車を複数組み合わせ、回転運動の速さを調整することが可能な機械構造が存在し、かなり正確な日時の経過を計れるようになっていたと考えられます。

この機械構造物はローマ帝国がギリシアを侵略し略奪した物と考えられており、その後ローマ帝国が衰退しルネサンス期が訪れるまでの1500年ものあいだ、文化の発展はほとんどと言ってよいほど見受けらなかったことは、良くも悪くも学ばなければならないことが大いにあるように思います。

15世紀、マゼランやガマの時代になり世界に大航海時代が来ると、船の上でも食事や起床・就寝の時間を知ることが出来るよう、持ち運びが可能な懐中時計が開発されました。それまでより遥かに小型で精密な部品の製作が必要とされたはずです。そうなると、ノミやヤスリで加工をしているだけでは精度も出ず、また生産も追いつかないため加工機が必要となりました。17世紀になると、イギリスで旋盤が発明され、これにより、それまでの手作業に比べて圧倒的に加工精度と加工速度が向上しました。これは非常に強力なツールでした。その後、旋盤を改良したフライス盤も開発されこれらの加工機で金属製の型(金型)やそれを転写した鋳型を製作し、複雑な構造物を大量生産することが可能となりました。また、大航海時代の終焉は植民地時代が到来しアジアで産出される綿を用いて洋服や帆布を織る紡績業や繊維業が始まりました。この場合も生産向上のため「シャトル」などが発明されることで技術も発展し、その動力源として石炭を用いた蒸気機関が発明され、また、石炭により製鉄の技術発展も同時進行することで、蒸気機関車や蒸気船を製造することが可能となりました。

この当時の産業の礎はエネルギー源としての石炭の利用と時計の製造を端に発した加工機の発明だと言えます。

文明というものを考えるとき、それを構成する重要な要素として、衣食住や文字・天文学・哲学、宗教などがありますが、それ以外にも「時計の歴史」というものが存在することを忘れてはなりません。

時代が進み20世紀になると石油の採掘技術に革新があり、石炭に取って代わるものとなり、これはプラスチックを初めとする化成品の原材料となるため、容器や化学薬品に応用されました。また、石油が利用出来る事は内燃機関の発明につながり、これによりディーゼル機関車や自動車の開発が大きく前進することにつながっていきます。

~現代と未来の産業~

このように産業の礎はエネルギーとツールが重要な要素となります。これに基づくと現代社会においてエネルギーは「電気」、ツールは「コンピューター」が中心となり産業の礎となっています。自動車、運輸、食品、工業、商業は当然のこと、農業や水産業といった第一次産業でさえ、コンピューターを利用せずに商いを行おうとすると、競争相手にあっという間に負けてしまうのが現実です。

さて今後どうなるかが重要なポイントですが、近未来、エネルギーとしての電気は既になりつつある「モバイル」が基本となり、ツールは「イメージング」(画像=静止画/映像=動画)が主体でコンピューターの自立学習や深層学習を元に自己判断を行うソフトウェアが基礎となっていきます(AI分野)

今まで高額な計測装置でしか判別できなかった現象やデータも、「可視化」して「画像表現」をすることで、その情報から何を意味しているか迅速に,かつ詳細に導き出すことが可能となります。

人でも視力が良いほうが何かを見つける能力が高いように、画像も高画質であることでコンピューターの自己判断精度が向上します。しかしながら、今後は画像や映像の「諧調(色の濃淡など‥bit」や「時間分解能(動画を構成する時間当たりの画像枚数‥fps)」が更に重要な要素として注目されていきます。

人の目は1秒間に10コマほどの分解能しかありません。人が普通に外で歩いているときにその人の靴の裏を見ようとしても、裏が見えている時間はちょうど0.1秒くらいの一瞬でしかないので、もし何かが付いていた時に、「何かが付いている」ということには気が付いても、それが何なのかは明確に分かりません。それに比べ、ハエなどの昆虫の目は人の10倍(100コマ/秒)の分解能があり、これは周りの動きが人が感じているより10倍スローに見えてることを意味します。この事が、あのように速く飛びながらも目的の場所に正確に止まったり、飛んだり、逃げたりすることを可能にしています。人の目で従来の生活環境がそのくらいスローで見えるのであれば気が付くことが大いにあることでしょう。

世の中には映像として諧調や時間分解能が刻々と変わる現象が数多く存在します。自然現象、人や動物、植物、工業製品、建築物、交通などでこれらの変化を見つけ出す精度が上がることで、サービスの向上や新しい発見につながります。特に昆虫を中心とする生物の機能(動き)や構造から新しい発見が多く見つかる事が想像できます。

話しは変わり、生命においてはエネルギーといえば「ミトコンドリア」が生産する「ATP:アデノシン-トリ-フォスフェイト」であり、ツールといえば「たんぱく質」です。ヒトゲノム計画の完了(2003年)により、このツールとなり部品となる物質が少なくとも23,000種類あることが分かりました。ただ、この非常に多くのツールが、生体内において、いつ、どこで使われているかについては、ほとんど分かっていないというのが現状です。これは仕方がないことで、生命体は何億年を超える時間を経て作られてきたものであり、おいそれと分かるはずがありません。現在の最高の分析技術を用いても、生体サンプルをどれだけ集めても、複雑な高等生物であればあるほど微量な成分を見つけだすことは非常に難しく