産業の礎(いしずえ)

(2019年3月29日~)

現在、最も大きな産業となるICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)分野やコンピューターサイエンス、あるいは計測装置など工業製品のすべてと言っても過言ではない「礎」となる原則があります。それは「波=波動」の存在です。光、音、電気などのすべてにおいて、このことに違いは無く、またこれは自然界の原理原則からもたらされたものです。

すべての物質の構成要素となる原子構造のように、陽子の周りを回転する電子の回転運動のようなスモールサイズの場合もあれば、太陽の周りを惑星が回るという天体の回転運動など、非常にビッグサイズのものまで共通して、波に置き換えることができます。

18世紀中後期、フランスにジョセフ・フーリエが誕生しました。フーリエはナポレオンに憧れて、遂にはエジプト遠征に文化使節団の一員として同伴することになりましたが、フランスに帰国した際にはある石を持ち帰って来ました。それが「ロゼッタストーン」です。これは3つの段落ごと、それぞれに同じ内容ではありますが違う種類の文字で書かれており、そのうちの一つが古代エジプト文字の「ヒエログリフ」と呼ばれるものでした。ロゼッタストーンはフーリエの家にある期間置いてあり、そこに出入りをしていたある若者がその石に魅せられました。彼の名を「ジャン=フランソワ・シャンポリオン」と言い、その後、約20年かけてヒエログリフの解読に努め、その解明に最大の貢献をしました。

昔から、名のある石や宝石は、その持ち主や関わる人の運命に良くも悪くも影響を及ぼすことがありますが、フーリエも例外ではありませんでした。ロゼッタストーンから得た知恵や知識は多大であったと想像できます。その後、フーリエは効率的な熱伝導を計算する方法として「フーリエ解析」の式を見出しました。それ以前にはアイザック・ニュートンが古典力学として、特に微分積分法を発見するなどの功績がありましたが「フーリエ解析」のように三角関数と波の考えを単純化するこの方法論は、それまで極一部の数学者だけが理解していた物理現象を多くの学者が理解できるものに変容させていったと考えられ、オーム、マクスウェル、ファラデーなどの「電磁気学」の発展にも影響を与えたと考えられます。

時と場所は変わり、アメリカでは1850年代になると西海岸地域の河川で多くの金が見つかりゴールドラッシュが訪れ、フロンティア精神を持った人々は東から西に向かって大移動をしました。それらを背景に大陸を横断する鉄道を整備する事業が開始され、その事業で大儲けをした人物が何名かいましたが、そのうちの一人が「リーランド・スタンフォード」でした。スタンフォードはその儲けたお金で大学を設立し、アメリカで初となる「工学部」を設立しました。加えてお金が無くても優秀な人が集まるように学費を無償にしました。

1930年代になるとウィリアム・ヒューレットとデヴィット・パッカードがスタンフォード大学時代の成果を元に会社を設立しました。現存する企業「ヒューレット・パッカード=HP」です。彼らは最初に音響の計測装置を製品開発し、ディズニー社に複数台納品をしました。その後のHPの発展は、その周りに関係する企業を呼び込み、シリコンバレーの素地が出来上がって行きました。1950年代になり「ショックレー半導体研究所」が設立され、世界最先端のコンピューターサイエンス研究が進み、1970年代に「アップルコンピューター」が設立されました。このような技術の積み上げを経て時代が進み、1980年代に「ヤフー」「シスコシステムズ」「サンマイクロシステムズ」「グーグル」などが設立されました。この4社はすべてスタンフォード大学の学生が学生時代に設立した会社です。

「電磁気学」では先行していたフランスやイギリスではなく、なぜアメリカでこのような連続的なコンピューターサイエンスやインターネット技術が発展したのか、その理由を改めて振り返りたいと思いますが、一つは前述したような「フーリエ解析」の手法を正しく理解し学生たちに教えた教師がスタンフォード大学にいたこと、また実務の面からこれらの解析手法を利用しようと考えた人たちが大勢いたことが考えられます。

もう一つはこの後に挙げる「電気のインフラ」が他国に先駆けて整ったことが大きかったことも考えられます。

19世紀後半にアメリカで活躍したトーマス・エジソンが発したいくつかの言葉は、彼が「あきらめずにトライアンドエラーを続けること」が重要だと考えていたことが浮かび上がってきます。その考えは「実験実証者」の考えです。そのエジソンは蓄音機や電話の開発も行いましたが、中でも白熱電球を開発し実用化するための事業化に力をそそぎました。その事業の主な仕事は発電所と送電網を作る事でした。

そのような事業を進めている最中、エジソン電灯会社に一人の若者が入社しました。ニコラ・テスラです。彼はそれまでエジソンが進めていた直流送電の方式に対し、交流送電の優位性を理論的に説明しましたが、理解されず反対され失職することになりました。そのことがきっかけでエジソン率いるエジソン・ゼネラル・エレクトリック・カンパニーとテスラが率いるジョージ・ウエスティングハウスの間で「電流戦争」が勃発しました。結果はテスラに軍配が上がり、その交流送電方式は現代にも引き継がれています。

「実験実証者」のエジソンは小学校を中退し独学で様々な分野に興味を持ち実務と経験から学んだ、浅く広い知識のタイプです。これとは反対にテスラは高学歴の「理論科学者」で狭く深い知識を持つタイプでした。互いがその事を理解せずにぶつかる事はよくありますが、この時も同様に確執が起こりました。

「実験実証者」は予想と違う事にも興味を持ち、横展開がうまいので新しい発見が多く技術革新も起こりやすいです。それに比べ「理論科学者」は予想と違う事は捨てるべきものと判断をするため新しい発見には気が付きにくいのですが、より高いレベルの技術を利用し安定したものを得ることが可能となります。

エジソンは様々な争いで負けましたが、エジソンが開発した白熱電球により発見された「エジソン効果」や誘導コイルの技術はその後の真空管、加えてトランジスタの発明にもつながるものでした。このようにエジソンが様々な科学者と確執をしながらも技術の牽引役となり、かつ世界に先駆けてアメリカ全土の大学や企業、研究機関などに豊富な電力が行きわたることにより、上述のコンピュータサイエンスの基盤技術である、トランジスタの開発や高感度な計測装置などが揃い、発展につながったと考えられます。

エネルギーとして電気が豊富にあるか無いかはその当時、非常に重要なポイントであったと考えられます。

時代はまた戻り、イギリスの産業革命。まだ電気が無い時代でした。イギリスの産業革命における成果物として有名な物は蒸気機関と製鉄、紡績技術などですが、それらを可能にしたのはそれまでの水力や人力・家畜などの動力から「石炭」という新しいエネルギー源を手に入れて利用を始めたからでした。

世界中で炭鉱を探す動きが活発になり石炭の生産量が飛躍的に増加するのですが、産業革命の場合はその前にツール(道具)の技術革新が存在し、その発展が石炭のニーズを連続的に生み出します。

ツールの技術革新に触れる前に、まずは人類史上、最も古くから存在する機械の話に触れたいと思います。それは「時計」です。

バビロニア、エジプト、ギリシアなど紀元前の文明では既に塔の形をしたオベリスクやグノモンなどの日時計が有り、これを用いて時間を読み取っていました。しかしながら、これらはおおまかな時間の経過しか判らないため、水や砂などの流体を用いた時計が作られるようになりました。水時計はまず最初に容器が水で満たされる時間を計り、その後、容器にどのくらいの高さまで水が溜まったかを計る事で時間が読み取れるという物です。その後、より狂いが無く安定した計測をするための改良が施され、アルキメデスなどにより様々な機械仕掛けが発明されていたことが資料として残っています。アンティキテラ(ギリシャ)海底の沈没船から発見された青銅の欠片には歯車構造が見受けられ、既に紀元前200年には直径の違う歯車を複数組み合わせ、回転運動の速さを調整することが可能な機械構造が存在し、かなり正確な日時の経過を計れるようになっていたと考えられます。

この機械構造物はローマ帝国がギリシアを侵略し略奪した物と考えられており、その後ローマ帝国が衰退しルネサンス期が訪れるまでの1500年ものあいだ、文化の発展はほとんどと言ってよいほど見受けらなかったことは、良くも悪くも学ばなければならないことが大いにあるように思います。

15世紀、マゼランやガマの時代になり世界に大航海時代が来ると、船の上でも食事や起床・就寝の時間を知ることが出来るよう、持ち運びが可能な懐中時計が開発されました。それまでより遥かに小型で精密な部品の製作が必要とされたはずです。そうなると、ノミやヤスリで加工をしているだけでは精度も出ず、また生産も追いつかないため加工機が必要となりました。17世紀になると、イギリスで旋盤が発明され、これにより、それまでの手作業に比べて圧倒的に加工精度と加工速度が向上しました。これは非常に強力なツールでした。その後、旋盤を改良したフライス盤も開発されこれらの加工機で金属製の型(金型)やそれを転写した鋳型を製作し、複雑な構造物を大量生産することが可能となりました。また、大航海時代の終焉は植民地時代が到来しアジアで産出される綿を用いて洋服や帆布を織る紡績業や繊維業が始まりました。この場合も生産向上のため「シャトル」などが発明されることで技術も発展し、その動力源として石炭を用いた蒸気機関が発明され、また、石炭により製鉄の技術発展も同時進行することで、蒸気機関車や蒸気船を製造することが可能となりました。

この当時の産業の礎はエネルギー源としての石炭の利用と時計の製造を端に発した加工機の発明だと言えます。

文明というものを考えるとき、それを構成する重要な要素として、衣食住や文字・天文学・哲学、宗教などがありますが、それ以外にも「時計の歴史」というものが存在することを忘れてはなりません。

時代が進み20世紀になると石油の採掘技術に革新があり、石炭に取って代わるものとなり、これはプラスチックを初めとする化成品の原材料となるため、容器や化学薬品に応用されました。また、石油が利用出来る事は内燃機関の発明につながり、これによりディーゼル機関車や自動車の開発が大きく前進することにつながっていきます。

現代と未来の産業

このように産業の礎はエネルギーとツールが重要な要素となります。これに基づくと現代社会においてエネルギーは「電気」、ツールは「コンピューター」が中心となり産業の礎となっています。自動車、運輸、食品、工業、商業は当然のこと、農業や水産業といった第一次産業でさえ、コンピューターを利用せずに商いを行おうとすると、競争相手にあっという間に負けてしまうのが現実です。

今後の世の中がどうなるかが重要なポイントですが、近未来、エネルギーとしての電気は既になりつつある「モバイル」が基本となり、ツールは「イメージング」(画像=静止画/映像=動画)が主体でコンピューターの自立学習や深層学習を元に自己判断を行うソフトウェアが基礎となっていきます(AI分野)

今まで高額な計測装置でしか判別できなかった現象やデータも、「可視化」して「画像表現」をすることで、その情報から何を意味しているか迅速に,かつ詳細に導き出すことが可能となります。

人でも視力が良いほうが何かを見つける能力が高いように、画像も高画質であることでコンピューターの自己判断精度が向上します。しかしながら、今後は画像や映像の「諧調(色の濃淡など‥bit」や「時間分解能(動画を構成する時間当たりの画像枚数‥fps)」が更に重要な要素として注目されていきます。

人の目は1秒間に10コマほどの分解能しかありません。人が普通に外で歩いているときにその人の靴の裏を見ようとしても、裏が見えている時間はちょうど0.1秒くらいの一瞬でしかないので、もし何かが付いていた時に、「何かが付いている」ということには気が付いても、それが何なのかは明確に分かりません。それに比べ、ハエなどの昆虫の目は人の10倍(100コマ/秒)の分解能があり、これは周りの動きが人が感じているより10倍スローに見えてることを意味します。この事が、あのように速く飛びながらも目的の場所に正確に止まったり、飛んだり、逃げたりすることを可能にしています。人の目で従来の生活環境がそのくらいスローで見えるのであれば気が付くことが大いにあることでしょう。

世の中には映像として諧調や時間分解能が刻々と変わる現象が数多く存在します。自然現象、人や動物、植物、工業製品、建築物、交通などでこれらの変化を見つけ出す精度が上がることで、サービスの向上や新しい発見につながります。特に昆虫を中心とする生物の機能(動き)や構造から新しい発見が多く見つかる事が想像できます。

話しは変わり、生命においてはエネルギーといえば「ミトコンドリア」が生産する「ATP:アデノシン-トリ-フォスフェイト」であり、ツールといえば「たんぱく質」です。ヒトゲノム計画の完了(2003年)により、このツールとなり部品となる物質が少なくとも23,000種類あることが分かりました。ただ、この非常に多くのツールが、生体内において、いつ、どこで使われているかについては、ほとんど分かっていないというのが現状です。これは仕方がないことで、生命体は何億年を超える時間を経て作られてきたものであり、おいそれと分かるはずがありません。現在の最高の分析技術を用いても、生体サンプルをどれだけ集めても、複雑な高等生物であればあるほど微量な成分を見つけだすことは非常に難しく、しかもそれが食事や活動、感情の変化などにより数秒単位、場合によっては数ミリ秒単位でツールの種類や量が刻々と変化します(ダイナミクス)

~世の中の「科学的根拠=エビデンス」への疑問~

生体内の複雑さは質量分析装置の測定結果で示すことができます。

ヒトから血液サンプルを多く集めて、現在最高の感度・分解能・精度を持つ質量分析装置をもって測定を行うと、最大で1万種類のたんぱく質を一度に同定することができます。これでも生体内のたんぱく質を全て測定出来ているかどうかは分かりませんが、少なくともこのくらいの数は常時、血中に存在すると考えられます。これに加え、たんぱく質以外にもペプチド、糖、有機酸、核酸をはじめ、非常に様々な化合物が存在し、その数は100万種を超えると想定されています。また普段、口にする食べ物のほとんどが生物由来(肉、野菜)であるため、例えば人参ひとかけらの中にも数万種の化合物が存在しえます。

最近になり「科学的根拠=エビデンス」という言葉をよく聞きます。医療や健康に関係する情報が語られる際には特にこの言葉が飛び交いますが、情報を受け取る側は改めて自分なりに考える必要があります。

マスメディアなどで、「バナナに含まれるⅩ化合物が体に良い」と言い、その検証としてある1つのたんぱく質=1遺伝子に特化してその量が上がったから健康に良いのだと説明していることがあります。このような事は他の食材や化合物でも多く見受けられます。これを科学的根拠が取れていると言って説明しています(図1)

図1 血液中の各化合物量の変化(赤いバーの物質よりも大きな変化を起こしている化合物をピンクで示している:このように量的な変化を起こしている物質は多く存在するため、少数の物質しかフォーカスしないのではほとんどの場合、意味が無い)

実際には、先に挙げたとおり、生体内ではさまざまな化合物が複雑でありながらバランスを保っており、その1種類の量が多少増減しようともほとんど意味をもたらすことはなく、全体がどう変化したことで、どのような表現系(少なくとも数十人が同じ生活環境下でどのような体の変化)が生じたかが重要となります。

先進国に住む人々は、普段の食生活において栄養的な不足を気にしなくとも、満ち足りていると思って間違いはありません。

それよりも現代は、食物を過剰に摂取しすぎることが健康に害を及ぼしています。生体は都合の良いことに、食物の摂取に関しては、一度に非常に多く食べても、逆に何日も食べなくても生きていくことが可能なくらい柔軟性があります。食材に含まれる様々な化合物の影響は、短期間の摂取であれば恐らく良くも悪くもないので影響を及ぼさないと思われますが、もし長期間過剰摂取をし続けた場合は悪影響が出る可能性があります。人間の歴史の中であまり摂取をしてこなかった化合物は体内で処理できるツールが無いため、蓄積して悪影響を及ぼす可能性があるからです。典型的な過剰摂取物質としては、人工甘味料や人工油、食材ではありませんが薬剤などが挙げられます。また、現在の計測装置では測定できない微量な有毒物質が様々な食材に含まれていることがあります。

科学の教科書は常に書き換えられます。現在の常識は来年には非常識になっているかもしれません。科学的根拠は「科学的検証の結果」としてもたらされます。科学的検証は実験や統計によりデータを出すことですが、この実験手法や統計手法が正しいかどうか?あるいは得られた結果の考察が正しいかどうか?が、様々な要因で違ってきます。実際に10年前の技術で得られたデータと現在の技術で得られたデータは大きく異なることが多いのです。

【生物は液体に溶解する化合物の集合体】です。特別な物体のように見えても基本的には「熱力学=熱、電気、磁気の力や化学的平衡」で成り立ちます。生物が特別なのは、そのような反応が非常に多く、同時に行われていることです。

ツールであるたんぱく質が生体内・生体外で他の物質に対して作用するときには呼び方が変わり「酵素」と呼ばれます。酵素が作用する相手方を「基質」と呼びます。酵素と基質は授業において、カギと鍵穴の関係であると習います。そうすると、「たんぱく質1のa穴にはA基質しか入ることが出来ず、B基質やC基質は入らない」と考えてしまいますが、必ずしもそうではありません。A基質とB基質とC基質が同じ量存在した場合に、A基質が最も入りやすいという事になりますが、Bの量が増えた場合、Cの量が増えた場合ではそれぞれ反応が異なってきます。このように一つのたんぱく質に対しても複数の化合物が反応します。

特に薬剤については、先に挙げた「カギと鍵穴」の考えを元にしたDDS(ドラッグデリバリーシステム)が基本的な考えとして存在します。体内に薬剤を取り入れる方法は主に消化器官からの吸収と血液への直接投与(点滴や注射)が主となります。服用した薬剤は胃から小腸にかけて肝門脈を経由して肝臓に取込み、その後血液に乗り全身をめぐります。肝臓から一部は胆のうや胆管、すい臓を経て再度十二指腸付近で消化器官に戻ります。いずれにしても全身を巡りながら、カギと鍵穴の理論で対象となる1種類のたんぱく質をめがけて薬剤を効かせようとします。このとき、血液中には先述のように数万種以上のたんぱく質や代謝物が存在し、それらも似たような鍵穴を持っています。本当に目的の1種類のたんぱく質のみにカギがささるのでしょうか?そのようなわけはありません。この時の量的バランスによって、薬が効く、効かない、副作用が出る、副作用が出ない、ということが起こります。また、吸収されずに小腸から大腸に移行していこうとする薬剤は小腸を過ぎて大腸に入った所から蠕動(ぜんどう)運動が無くなるため滞留します。

話しは少し反れますが、がんは体内で滞留する場所に発生します。血液などの流れがある箇所での発生=血管がん、小腸がん、心臓がん、リンパ管がんなどは、ほとんど聞いたことがありません。それに比べてほとんどの臓器はろ過機能がありますので、化合物やそれ以外のものがそこに滞留します。リンパ系ではリンパ節は臓器と同じような構造となっており、よくがんが発生する箇所です。

薬剤の副作用の有無については、米国FDAや日本の厚生労働省などの指針に基づき、製薬企業は日々研究を重ねています。しかしながら、コスト面や技術の面で大きな壁にぶつかっています。

副作用の件において、ヒトで最初から最後まで実証を行う事は難しいため、動物を用いて実験を行います。その動物はマウスやラットが基本です。

マウスおよびラットはライフサイエンス研究のモデル動物として古くから利用されてきました。その理由は①繁殖サイクルが早い(妊娠期間が短い) ②取扱いしやすい(暴れても人間の手におえる) ③ヒトと遺伝情報が近似(相同性=99%)が挙げられます。

特に創薬の分野において、疾患モデルマウス(高血圧など)を作製し、その治療効果を持つ薬剤を探索する(マウスに注射し血圧が下がるかどうかを確かめる)ことが行われています。

マウスでの実験(前臨床試験)でその薬剤に効能があり毒性が低いことが分かると、その後ヒトでの実験(臨床試験)につながります。

しかしながら、そこまで到達するためには非常に高いハードルが存在し、2011年から2015年の実績ベースで、マウスで効能が見つかった薬剤候補となる化合物数=700,000に対して、臨床試験に移行できた化合物数は=70となっています(図2)

図2 医薬品開発に要する期間と成功確率(参考資料:第5回 国立高度専門医療研究センターの今後の在り方検討会より)

一度は科学的根拠という名の元に効能があると言われた薬剤候補が非臨床(前臨床)でここまで絞り込まれてしまう理由も、いざ臨床試験に入ったものの認可を受けられない理由も、そもそも最初に効能がありそうだと考えた科学的根拠の取り方や考え方に偏りがあったり勘違いなども理由として見受けられます。

しかしながら、これらは長年にわたって「ヒトとマウスでは何かが違う」の一言で片づけてしまっていました。実際には先に挙げたとおり、ヒトとマウスの遺伝情報は99%の相同性があり、残り1%の違いでここまでの違いが出るとは考えられません。

また、現在は一度病気になると薬剤を長年飲み続ける傾向があります。当然このときの薬剤は厚生労働省の認可を経て市場に出ている物ですので、効能があり安全性が高いと認められている物です。

しかしながら、これも下記のことを留意する必要があります。

図3 実験動物の寿命と一頭あたりの値段

脳血管疾患、心臓疾患、糖尿病、アルツハイマー、難病、高血圧などあらゆる病気に関して、数年にわたり複数の薬剤を飲み続けているケースが見受けられます。病気によってはこれらの薬剤を急に止めてしまうと悪影響がでる恐れも当然あります。それでも、非臨床試験で行われる毒性試験はマウスやラットが基本なので、それら動物の寿命となる最大で2~3年間までしか投与を続けることができません(図3)

マウスやラットの代謝速度、脈拍、呼吸回数などは早いので、ヒトと同時間軸で並べることが常に正しいとは思いませんが、それでも投与期間はヒトが飲み続ける期間より短く、また上に挙げた病気を複数罹患した場合に複数の薬剤を飲み合わせたらどうなるかについて、逐一製薬メーカーが検討する事は不可能に近いです。

本当にヒトにおいて毒性が低いかどうかを検討するには、アカゲザルなどの霊長目を実験動物として用いるべきですが、上記のとおり一頭あたりの値段、またこの値段より遥かに高い飼育コストなどを踏まえて実験計画を作らなければならず、繁殖や飼育の難しさ、コストを考えるとこれも現実的ではありません。

今までは科学的根拠を取るためと称して、再現性を得るために非常に多くのマウスやラットを実験で用いました。その場合に行われる実験方法も技術が未熟なために、ヒトに応用できる手法とは到底言えない事が行われています。例えば注射一つを取ってみても、あの小柄なマウスに対して1mLの薬液量を一度に注入します。マウスの体重は50gほどで、ヒトが50kgだとすれば、1/1000の重さです。ですのでヒトに換算すると一度に1000mL(牛乳パック1つ分)を注入していることになります。

実験動物を利用する必要性は今後も減らないと考えられますが、マウスを消耗品として用いる今までの実験手法には改善が必須です。また副作用が起こった場合に感情を発すること(気分が悪いなど)の重要性を考え、霊長目であるマーモセットのような小型サルのように繁殖サイクルが早く飼育し易い動物を用いて、ヒト一人と同じように大事に扱いながら実験を行っていくことを主流にしていく必要があります。

また、現在の血液検査を始めとする様々な病気の診断についても、ほとんどを見直さなければいけない時期が来ています。今までに存在するマーカーの多くが、健常人と患者の血液比較から導き出されたものですが、患者は既に投薬が始まっている場合が多く、薬剤に影響を受けている血液を比較してしまっていたことが多いからです。特にがん診断において、抗がん剤には細胞分裂阻害剤を用いており、生体に対して非常に強い作用を及ぼしている可能性があるため、既に抗がん剤の投与が始まった患者と健常人の比較で見つかった違いは参考にしてはいけない可能性が高いです。現状のがん診断の科学的根拠はこのことを踏まえてない場合が多く、見直す余地があります。

今後はがんや他の病気でも、投薬治療が始まっていない「早期」患者のサンプルを入手し、そこから健常者とは違う何かを見つけ出していく必要があります。

~産業と資本主義~

ここで少し「化学」の話をします。化学の礎は「錬金術」と大いに関係があります。錬金術は他の物質(特に水銀や鉄などの金属や岩石)から黄金を作り出す方法を試みる術です。

錬金術が行われ始めたのは、紀元前1000年頃からでローマ帝国の支配が及ばない西アジア~ペルシャ~インドの地でした。黄金を作り出すために、まずは何から構成されているかを知らなければならないため、黄金を溶かす試みが行われました。

8世紀から9世紀ごろのバグダットに住んでいたジャービルは強酸を用いるといくつかの金属が溶けることを見出し、いくつかの製造方法(加熱による蒸留や溶解、これによる精製、結晶化など)を発見・駆使し、硫酸や塩酸、硝酸を作り出すことに成功しました。そして、これらが金を溶かす王水の発見にもつながりました。ジャービルが賞賛に値するのは多くの化学物質や化合物の製造方法を発見し、それを文献として残したことです。また、この時代に発見された製造方法が現在においてもスタンダードな方法であることは驚くべきことです。それほど当時は超越した技術でした。

その後、時代は変わりルネサンス以降のヨーロッパにおいても錬金術が活発に行われるようになり、錬金術は化学と生命科学(特に薬学)に移行していきます。

日本においては、化学は開国以降に入ってきた知識で比較的新しい学問でしたが、これに近いものとして「発酵」の技術が存在しました。これは世界的にみても長い歴史があり、洗練され優れていました。このことが日本人が化学の知識を迅速に取り入れることができた理由だと考えられます。旧財閥がそれまで石炭の事業で蓄えた財力を資本に、また、石炭の応用や石油への移行を見据えて、化学会社を立ち上げていきました。

時代は戻りインドではこの流れとは全く別に、古くから独自で冶金術と錬金術の技術を磨き、質の高い金属加工品やガラス品を製造していました。紀元前6世紀にはウーツ鋼と呼ばれる、るつぼで高温に焼かれた非常に硬くて錆びない金属が作られていたという歴史があります。ウーツ鋼は現在の技術をもってしても、再現できません。このことが化学の本質を物語っています。

化学の本質は「目に見えない」ことです。目に見える物は真似をされやすいのですが、目に見えない物は成分が複雑であればあるほど真似をするのが非常に難しいです。スープのレシピのような物です。

ですので、化学は非常に長い歴史の上に培われてきたものであり、後から追いかけても難しいところがあります。核兵器を保有するには化学の知識が必要ですが、インド、パキスタン、イランなどが核を保有できたのも、このような化学の礎が存在したのが理由と思われます。

中国の核技術は北朝鮮から得た物であり、北朝鮮はイランから得たと推測されています。

近年、技術開発への大きな投資を元に、中国経済の発展が著しいですが、中国はいまだに化学工業は道半ばの状況です。インドにおいては製薬企業が大きく育ちましたが、中国では全く聞きません。自動車産業や半導体産業においても、非常に様々な化学薬品を使用しますが品質上の問題で米国製や日本製には大きく後れを取ります。

しかしながら、中国は先に挙げたように他国とは比べものにならないほどの大きな投資を行っています。これが可能な理由は経済の発展のみではなく、